さよならの代わりに。 吹き抜ける風が好き。 何もかもをさらっていってしまいそうな。 この風に、 僕の心をもさらわれていく。 突然の風に、僕はふと足を止めた。 こんな日はとても気分がいい。 吹き抜ける風が、 僕の中の暗闇を一瞬拭ってくれるような気がするから。 頭上を薄紅の花びらが散っていく。 まるでそれは紅色の雪のよう。 淡い色彩に視界をふさがれ、 僕は舞うように両腕を広げた。 紅色。 どこまでも紅。 紅色のそれは、 さながら滲みながら散る赤い血のよう。 もっと散って。 もっと舞って。 もっともっと。 風が吹いて、軽やかに紅が舞うたびに、 僕は楽しくて、 くるくるとステップを踏んだ。 ふいに、視界に動くものを認めて、 僕の足が止まった。 なんて無粋。 せっかく楽しかったのに。 不愉快な思いで見下ろす先には、ちっぽけな仔猫。 元は白かったのだろうけど、 今は灰に汚れて薄汚くって―――――。 何より目つき。 恨んで恨んで、 片時だって忘れることのない記憶の中の彼に似た、その目。 ――――――不愉快だよ。 くびり殺してやろうと思った。 その細い首をじわじわと締めあげて、 苦しむ様を、 憎む彼の姿に重ね合わせて。 ゆっくりと、 その全てを奪ってやろうと思っていた。 それなのに。 確かに僕の殺意を感じたはずのその猫は、逃げるどころか、 一歩近づいた僕の足にすり寄ってきて。 どうしてかな。 殺すタイミングを見失ってしまう。 ―――――――。 風が吹く。 足元に積もった花びらを乗せて、 通り過ぎていく。 こんな日は気分がいい。 とても。 「―――――おいで。」 その翡翠の目を見据えて、 僕はゆっくりと手を差し伸べた。 別に、情がわいたわけじゃない。 共に生きようとか、 楽しくすごそうとか、 そんなくだらない感傷にほだされたわけでもない。 どうでもいい。 ただの気まぐれ。 風が吹いて、 空もあおくて、 薄紅の花びらに包まれていたから。 すこし、気分がよかっただけ。 服のそでにじゃれる痩せた仔猫を見つめながら、 僕は薄く微笑った。 君はしあわせそうだね。 あの日、どうして僕から逃げなかったの? 視線に気づいたのか、 じゃれるのをやめて顔を上げる。 透きとおる、翡翠の瞳。 キレイだね。 どうしてあの時、 ムヒョに似てるなんて思ったのかな。 散る。 舞い散る。 すべてのものが、必ず訪れるその終わりに。 散っていく。 薄紅の風に、 僕が瞬きをするようなそんな刹那に、 仔猫は眠るようにその命を閉じた。 もしかしたら、 出会った時すでに死期が近かったのかもしれない。 だから僕の殺意に動じなかったんだね。 僕の殺意よりも、 君にかげる死の色の方が濃かったから。 悲しくはない。 悲しくないよ。 キレイな瞳をもう見れないのは、残念だけれど。 君の亡骸を、 薄紅の花を咲かせる木の下へ。 君がいる間、 僕は少しだけ楽しかったから。 笑って送ってあげる。 薄紅に、消えていく君。 さよならの代わりに、 君を悼む、どんな言葉を贈ろうか。 散る。 果てなく、薄紅の花びら。 何となく、溜息をついて、薄紅の世界にこの想いを埋める。 |
■まどかたん。 自分が書こうとしているテーマにいまいち追いつけず苦しんでる感が満載の文体になってしまってます・・・あわあわ。 もうすぐ春なので、それらしき作品にしました(どこが・・・!) |