雨音を、辿るように。 灰色の雲が溶けるように透明な雫を落とす。 もう二度と青い空など見えないのではないかと思うくらいに。 それは街中を濡らし、 吸い込む空気を湿らせ、 決して激しくないはずのその音は、 憂鬱になるほどに鼓膜を叩き続けていた。 何がそんなにかなしいの? 透明なビニール傘越しに薄灰の空を見上げる。 傘に流れる雫が、まるで涙のようにその表面を伝って、 音もなく流れ落ちた。 その光景に、まるで自分が泣いているような錯覚に襲われる。 別に、僕はかなしくなんてないよ。 唇だけで呟いて、俯く。 目の前には黒い傘。 傘を持つ彼の体は、僕と違って小さくて。 さして大きくもない傘に、 すっぽりと隠れてしまっている。 傘はひょこひょこと上下しながら動いて、 それ自体に命があるようにも見えた。 目の前にあるのは黒い傘。 まるで僕と彼の間に、 黒い膜をつくってしまったみたい。 雨はきらい。 雨の日はきらい。 並んで歩けないから。 傘が邪魔で、君の隣を歩けないから。 足先で雨を蹴って、 水たまりにわざと足を踏み入れて。 僕に足りないものはなんだろうと考える。 きみの隣を歩けない僕に、 たりないものは何だろうと考える。 考えて、考えて、考えれば考えるだけ苦しくなる。 胸がきゅっと痛くなる。 唐突に涙がこぼれそうになって、 必死で息を飲み込んだ。 泣くもんか・・・・・・。 目の前には、空から落ちた小粒の滴。 とめどなく、とどまることなく、景色を滲ませていく。 なにがそんなにかなしいの? ―――――ううん。 そうじゃないね。 僕の代わりに泣いてくれてるのかな。 雨の日はきらい。 君の隣を歩けないから。 きらい。 君の隣を歩けない、勇気のない僕。 雨のせいにして、踏み出そうとしない僕。 僕にたりないもの。 君の隣を歩くのに必要なもの。 ほんの少しだけ、ほんの半歩でも、前に踏み出す勇気。 雨の日に、傘はほんとうに必要なのかな。 僕の透明な傘。 君の黒い傘。 灰色の空。 落ちる水滴。 少しだけ、少しだけ、僕に勇気を与えて。 傘は舞うように一瞬宙に浮いて、 それから静かに、濡れたコンクリートの地面に転がった。 絶え間なく降り注ぐ滴が、 髪を、肌を、唇を、睫毛を伝って、流れていく。 視界には、黒い、黒い、傘。 君に、ふれたいんだ。 体を伝うこの滴のように、 君にふれさせてほしいんだ。 「オイ、ロージー。傘は―――――」 僕は泣き笑いのような表情で少し微笑って、 空を少しだけ見上げて、 「大丈夫だよ」と誰にともなく呟いて。 ねぇ。 僕の想い、届くよね。 大丈夫だよね。 だって、君はいつだって、手の届く場所にいるんだもの。 だからどうか、君にふれさせて。 |
■雨を題材にするのが好きです。 そして雨は好きです。 またしても独りよがりな内容・・・あわあわ・・・!(ヘタレ決定) |