世界。








小さな幸せがある。




それは本当に些細でちっぽけなことなのだけれど。





ただこのささやかな世界に、与えられたことの幸せを想う。
















「ムヒョったら、ベッドなんかで本読んでたら目悪くするよ?」






咎めるような声に、オレは読んでいた本から視線を上げた。
仰向けに寝転がったまま横目で声のした方を見ると、
ホウキを持ったロージーが困ったような顔で立っている。






・・・・・・コイツはいつ見ても掃除ばかりしてるな。



そんなことを思いながら、再び本に視線を戻そうとして
―――――取り上げられた。









「オイ・・・。」


ベッドから身を乗り出して取り返そうとするも、
いかんせんロージーの方が体型的にも有利なものだから、
それは難なくかわされ、本は手の届かない場所に置かれてしまう。






「もうっ。目が悪くなったらどうするのさ」





ホウキ片手に怒るその様子はまるで母親のようだ。
何となく可笑しくて、思わず笑ってしまう。



「・・・・・・何が可笑しいの?」


片眉を寄せて困惑したようなロージーに、
オレは正直に答えてやる。
しかしその答えは当然のことながら不満だったらしく、
彼は腰に手を当てて頬を膨らませた。







「本読みたいなら、椅子に座って読めばいいでしょ」
何もベッドじゃなくても。








その言葉に、はぐらかすように肩をすくめて、
枕の下から新たな本を取り出すと、
ロージーが唖然とした顔をして・・・それから大きくため息をついた。








「この場所が好きなんだよ」








それだけ言って本をめくり始めると、
ロージーは諦めたように「まったくもう・・・」とかブツブツ呟きながら、
掃除を再開した。



















ふと目の疲労を感じて、
オレは読んでいた本を無造作に脇へ放った。




寝返りを打ってベッドの柵越しに部屋を見ると、
懸命に掃除に勤しむロージーの、琥珀色の髪が目に入る。









窓から入る陽の光を受けて、
透けるように輝く髪。




黄金とも黄ともまた違う控えめなその色が、
今は蜜色に染まっていた。









視線を感じたのかロージーがこちらを振り返る。
髪と同じ、深みのある琥珀の瞳。





「どうしたの、ムヒョ?僕のことじっと見て・・・」




怪訝そうに首を傾げる。
細めた瞳もまた、明るく陽の光に染まり、
一瞬その中に取り込まれてしまいそうな、
不思議な気分になる。







「見てねぇよ。オメェがこっちを見たんだろが」



「そうかな・・・」と何の疑いもなくオレの言葉を信じて、
ロージーは視線を戻す。
















ここから見える景色。






ベッドの枠越しに見える、
本当に小さなその世界。





オマエを見失わぬ位置に置かれた
このベッド。








オレがいつもここにいる理由を、
オマエが考えることはあるだろうか。




ここにいる理由を、
知る時はくるだろうか。






白い壁と
白い天井と、
琥珀色のオマエ。




眩しくて直視できぬようなそのコントラストを
夢見る思いで見つめるオレに、
果たしてオマエは気づいているだろうか。
















「やっぱりムヒョ、僕のこと見てる・・・?」





「見てねぇよ」




ロージーの疑わしげな声に即答して、
オレはゆっくりと目を伏せた。




















気づいているか?






このベッドの高さが、
オマエの目線と同じだということ。















―――――知っているだろうか。






ここから見えるオマエの姿に、安堵して眠るオレのことを。




















■良くも悪くもスランプに片足突っ込んだままのようですorz


ムヒョのベッドが微妙な高さなので、
それがロジの目線と一緒だと萌えるかなーとかそんな妄想が突き抜けた結果です(大量汗)
独りよがりでスミマセ・・・!