ふれる 白にとけて
















赤が、世界を溶かしていく。

















真っ白な雪が降り積もる中、まるで眠るように、オマエは瞼を伏せていた。
まだ赤みの差す頬と、白くなっていく唇と。
横たわるカラダを包み込むように、その華奢なカラダの輪郭は雪に包まれていた。



白の棺で眠りについたオマエを、オレはただ、呆然と見つめるばかり。









絨毯のように広がる雪原が、彼から抜け落ちる熱に侵食されていく。
幼子のように微笑むオマエのカラダがどこまでも赤く染まっている。




白と赤しかないこの世界で、ただ。
吹きすさぶ白い雪が体温を奪っていく。
オマエのカラダをつめたくしてしまう。
オマエがオマエでなくなっていくみたいに、全てを奪っていく。


















やめてくれ。
これ以上、奪わないでくれ。














どうして。
どうして、こんなことに。




オレは間違っていたのか。
何が間違っていたのか。
何が、誰が、どうして。













ああ。
そんなのもうどうだっていい。












冷たくなっていく。
オマエまで、白い世界に溶けていく。
冷たくなっていくんだ。







なぁ、応えろよ。
何か言えよ。




オマエ、そんなに無口だったか?
いつもの、くだらないお喋りでも聞かせてみせろよ。















白が。
白が、白が、白が。


残り少ないオマエを奪っていくんだ。













視界が、しろい。
真っ白だ。



































きみが泣いていた。
はじめて、きみが泣いていた。




どうして。
ねぇ、どうして、ないているの?






腹部が熱い。
ぬるりと温かい。
頬はふれる雪で冷え切っているのに。













落ちてくるのは。
この頬に落ちてくるのはなぁに?




雪?
それとも…きみのナミダ?


ごめんね、手が、うごかないの。
きみのナミダをぬぐえないの。
だきしめてあげられないの。











しってるよ。
しってたよ。




きみはほんとうは泣き虫なんだ。
寂しがりやなんだ。




しってたよ。
霊を裁くきみの心がいつも震えていたこと。














だから、ぼくが、だきしめてあげるんだ。
もうさみしくないよ。
だいじょうぶだよ。


ぼくがいるよ。










あぁ、指先の感覚がない。
視界が霞むのは、きっと吹雪く雪のせいじゃない。

















なかないで。
なかないで。


ごめんね。
ひとりぽっちにしちゃうよ。
















でも。
どうか、どうか、なかないで。














きみが、何か言っている。
なぁに?
よく、きこえない。






視界が、しろい。
じむしょに、いっしょにもどるって、やくそくしたのに。














  ねぇ、 もう 、   なかないで




































「ロージー」







微笑った気がした。
逝く間際、微笑った気がした。
いつもの笑顔で。





指先が雪を握り締めて、ただ熱い。
カラダが、熱い。











「ロージー」








ずっと、一緒にいたいって言ったの、テメェだろうが。
ずっと、一緒にいるって言ったの、テメェだろ。
ずっと、ずっと、一緒に。




一緒に。












「一人に、すんな…」








すっかり冷たくなった、ロージーのカラダをかき抱いた。
抱き返してくれる腕が、もう、ない。







ごうごうと、吹雪く音が、うるさかった。
聞きたいのは、オマエの声だけなんだ。













抱きかかえたまま、一緒に雪原に倒れこむ。
倒れこんだその上に、雪が容赦なく降り積もる。
白く塗りつぶしていく。


ロージーの頬に、頬を寄せる。
冷たい肌。






「ロージー」














眠り続けるオマエ。


そういえばオマエ、怖い夢見る度にオレのベッドにきたよな。
情けねェツラして、一緒に寝て、って。
















一緒に。
ずっと一緒にいるんだ。


約束した。















一緒に、眠ろう。

なぁ、ロージー?
























ロージーの日向色の髪。
大好きだったよ、オレは。


ずっと、憧れてた。





髪をなでてやりながら、ゆっくりと瞳を閉じる。


















眠ろう。
オマエが怖い夢を見ないように、一緒に。




ずっと。
ずっと、いっしょに。











「おやすみ、  ロージー 」




































世界が色を取り戻す。
白く白く。




雪原には、ただ静かに、白が横たわっている。