あたりまえのように。
















たとえば、それはほんとうに簡単なこと。




生まれたばかりの赤子が、誰に教えられるわけでもなく呼吸をする。
思いがけない水の冷たさに驚いたりする。
空の青さに涙を流したりする。





それはとても自然なこと。






簡単なこと、当然なこと。



当たり前のように、世界は簡単に、けれど脆く、存在している。

















「君が好きだよ」




透明すぎる青を見つめて、雨上がり、ひやりと濡れた風が吹いて。
揺れる世界に身を任せて、僕は歌うように言葉を紡ぐ。






「突然、どうした?」


凛と正面を向いたままの君の顔は変わらない。
それでも僕が落とした言葉を拾い上げてくれた君。





それは、今は、自然なこと。



僕が知らず君に惹かれたのと同じで、きっとそれに理由はない。





「なんとなく、ね」














空は、ブルーだ。
染みるくらい。
沁みるくらい。




このカラダへ。
この心へ。







何もかもに理由はいらない。


だからそれ以上、君は何も言わない。















ほんとうに簡単なことも、
ほんとうに自然なことも、



ほんとうに難しいことも、



きっといつか気づかず幕が降りる。















「君が好き」


いつでも言える。
けれど永久には言えない。





でも、残りますように。








空が青いまま過去にも未来にも繋がるように。
たとえば当たり前のように僕が消えてしまっても、確かに何かがここで芽吹いていますように。















「青い、ね」




遠く遠く高く、遠く。





青一面に埋め尽くされたそれを欲しても届かずに、
指先だけ静かに彷徨うから。








沁みこむ。
静かに。





この空も、
雨上がりの梅雨めいたにおいも、
ただ遠くを見つめる君も。




当たり前のように数秒後には消えていくその全てを。






忘れないだろう、僕は。









当たり前のように。
きっとそれも、当たり前のように。