証 「死なないでね」 オマエはいつも泣きそうな顔でそう言う。 まるでテメェが死んじまいそうじゃねェか。 そんなことを思いながら、ふと足元の小石を拾う。 「人はみな死ぬ」 ロージーは耳を塞いで、何度も頭を振る。 いやだいやだ聞きたくないよ、と。 そんな言葉が聞こえるようだ。 オレは血が滴る自らの腹部を見る。 何のことはない、軽症だ。 「見たくねェか」 人の血を。 人の死を。 オレは少し抉れた腹の傷に、些か乱暴にふれた。 ねっとりと指先を濡らす生暖かい液体。 その指先をロージーの前に突きつける。 「目を、逸らすな」 目まで強く閉じて、彼は頑なに首を振った。 肩が、小刻みに震えている。 「これは、オレの生きた証だ」 耳を塞ぐロージーの腕を引っ張り、 音を拾わせる。 聞いておけ。 オレが伝えられる間に、聞いておけ。 いつかこれが、オマエの救いになる。 深紅は指から腕へとキレイな線を引いていく。 一筋、二筋と。 彼はまるで魅せられたように、呆然とそれを見つめている。 「刻め。忘れるな。目を逸らすんじゃねェ」 ぱたぱたと落ちた深紅は地面に染み込むことなく、 月明かりに淡く輝く。 「テメェが目を逸らしたら、オレはどこに刻めばいい?」 オマエしかいない。 唯一の、彼を認める言葉で。 そんな言葉、こんな形で聞きたくないよ、と。 彼は今にも叫びだしそうな顔でオレを見る。 「君は…残酷だよ」 絞り出すような声に、オレは微かな溜息を吐いた。 「…そうかもな」 ふらりと先を歩き出すオレの背後で、彼はまだ立ち止まったまま。 立ち止まったままで、オレの残した深紅を見つめている。 ロージーは泣いているだろう。 手から、小石が落ちて転がった。 空には満天の星空。 だが天から見れば、 この足元の小石とて星のように見えるのかもしれない。 とりとめもなく、そんなことを思った。 オレは今、どんな目をしているだろうか。 |