Clear eyes.















見つめるのが怖いと思った。
見つめられるのが怖かった、ただ純粋に。



オマエの眼差しはいつだって真っ直ぐで純粋で、
澄み切った水面のようだった。
覗き込めば淀みなく、映された対象のほんとうの姿を映し出す。





オレを見るな。

オレにふれるな。





オマエのキレイな天然石のような瞳は、
オレの姿をどのように映し出すだろう。




昏い、闇に囚われた目を、オレはしているのではないか。
人でありながら他を裁くとは何て不相応なことだろうと、
果たして化物はどっちだろうかと
時折自嘲することがある。





怖いんだ。
オマエの目を覗くのが。
オマエの目にどう映っているのかを知るのが。














----------------------------------------












「ムヒョ」




「あ?」


「どうしたの、最近へンだよ」



「別に。変わんねぇよ」



「でも…」




伸ばされたロージーの腕。
その指が肩にふれる寸前、

「あ…」



思わず振り払う。
ピシッと鋭い音が響き、
ロージーがどこか傷ついたように目を見開いた。






マズいと思った。
謝らなければ、と。




けれどこちらを見つめる彼の目を見るのが怖くて、
まるで喉に栓をしてしまったかのように、言葉に詰まる。






「…ごめん、ね。ムヒョ」



差し伸べられた手を振り払ったのはオレなのに、
何故かオマエは何度も、ごめんねと泣きそうな顔をした。







ズキンズキンと胸の真ん中が痛む。
罪悪感と、自身に対する不快感で吐きそうになる。






「悪ィ…」



ロージーへと背を向ける。
どこか…一人になりたいと思った。









「僕の目、嫌い?」




そんなオレを追うようにぽつりと零れるロージーの言葉。
いつもみたいに泣いて取り乱すわけでもなくて、
ただ積もった僅かな雪がぱさりと屋根から落ちるような、
そんなしんとした静寂。






「知ってるよ、君が僕と目を合わせないこと」


「……」



「僕の瞳は、君を傷つける?」




どこか迷うように言葉を選ぶロージー。
背中でそれを聞きながら、
オレは無意識に両手を握りしめた。




ロージーは何を言おうとしてるんだろう。
そんなことをぼんやりと考えて。












「それなら僕は、こんな瞳、いらないと思うよ」



泣きそうにごめんねとまた言う。
僅かに震えた声に、オレはゆっくりと振り向いた。









「…ッおい!」



心臓が凍るかと思った。
魂が一瞬にして消えうせてしまったかのように、
プツンと思考が停止する。



ロージーの指は、自らの瞳…眼球に添えられていた。
その行為の意味することは。




「僕、嫌だよ…」



「ロー…」





「君を傷つけるなんて、僕は嫌なんだもの…」









震える睫毛と、
瞳を縁取るように伝って流れ落ちる涙。




透明な瞳が濡れている。
映りこんだオレの姿をも揺らして。




なんてことを。
オレはこいつになんてことを。








「ごめんね、ムヒョ…ごめんね」



顔を覆って、膝を折るロージー。
涙声でごめんねと繰り返して、しゃくり上げる。











「ロージー」


抱きしめようと腕を伸ばしかけて、躊躇う。
短く吐息を洩らして、震える肩にふれた。





ビクッと怯えるように揺れる体。
オレを気遣ったのか、瞼を強く伏せる。




「目…開けろ」
そうしてその瞼に唇でふれると、
「で、でも…!」
ロージーはふるふると弱々しく首を振った。




「いいから開けてみろ」





恐る恐る開かれる、瞼。
琥珀の…今は涙で滲む瞳の奥を覗き込む。
何もかもを映し、受け入れるような透明な眼差し。



そして映るオレ自身の姿。






「キレイな目だな、テメェのは」
ぽつりと呟く。




「ムヒョ…」





「潰そうとなんてすんじゃねぇよ」





ロージーは溢れる涙を拭わぬまま、小さく頷いた。
「でも僕は…ムヒョのためなら、何だって捨てられるよ」





その言葉に偽りはない。
真っ直ぐな眼差しが一途に彼の想いを伝えてくる。














----------------------------------------













畏れていた、オレは。
何を。



その瞳に映る、自身の本性か。






そうして初めて深く覗き込んだ瞳。


逸らされることなく真っ直ぐ見つめてくる双の琥珀に、
オレはようやく知った。







「捨てる?バカなこと言ってんじゃねぇよ」
コイツに、捨てるべきものなんてあるはずがないのに。




「何ひとつとして、欠けさせるな」












あぁ、オレは愚かだ。


こいつの眼差しは
オレをいつでも受け入れようとしているのに。







ようやく、気づいた。
オレはずっと、コイツの瞳に焦がれていたのだ。

























■スランプ期間突入です(イベント前のこの時期に!orz)
ロジはたぶんムヒョのために平気で何でも捨てられる子だと思う。
痛いことでも笑って、喜んでやる子だと思う。
それはただムヒョを思ってのことだけれど、ムヒョにとってそれはやりきれないことだとも思う。
ロジを暴走させるのがムヒョの存在だとして、それを抑えてるのもまたムヒョの存在なのだろうなと思います。