白闇















朝靄に僕は溜息をつく。
まだ眠りの中にある町に、僕はただ一人立ち尽くす。







空は白く、
町は白く、



吐息も白く、
全てが白く。






この眼球で捉えたその全てに
僕は白色しか受け入れることができなくなってしまったかのように。



ああ、唯一知る色、それが白。






微細の粒子は肌を溶かして
細胞膜を突き破り
そのまま魂の奥の底まで。




どれだけの白を受け入れたとて
僕が自身の色まで失くしてしまうことは不可能だろうに、
それでも際限なく吸い込むように滲んで消えるようなそれ。









まるでそこは白い海。

呼吸もできて自由に動ける。
それでもそこは白い海。




まるでそれは白い闇。

何も見えないことを闇と定義するならば、
あながちこれも闇と呼んで違うまい。
だからこれは白い闇。







どうせなら呑み込んでくださいと。
まるで胃液のように纏わりつくそれで、
跡形なく溶かしてくださいと、ほんの少しだけ願ってみて、
それを笑ったりもする。




歌えど笑えど囁けど、誰もここにはいないのだから。
じゃぁ僕がここで泣いても、それはきっと僕だけの秘密。










闇の中でないしょの話をしよう。


返事はいらない。
ただ君がそこで聞いてくれてるのではないかと、
僕は勝手に信じているから。





ひっそりと泣こう。
僕を想って泣こう。
君を想って泣こう。






どうせ誰も知らぬまま。
いっそそのまま息絶えるのも悪くないように思えるんだ。





そうして君は知るだろう。
きっと知るのだろう。




僕が白へと還ったこと。










何も知らぬまま、
それだけを唐突にきっと知るのだろう。





この慟哭という名の白い闇に、
潰れるような想いばかりが溶けていく。

















白しか見えない。



白へと、このまま終焉を辿ろうと。







少しだけ深く、
少しだけ切なく、
霞む空気を吐き出して。




白しか知らぬという想いをまた簡単に踏み潰して、
燦然と輝くような蜂蜜色に想いを馳せる。






哀しくなるほど白と遠いばかりの自身の存在が憎いと思って、
どうか今すぐ助けてほしいのだとか、そんなことを思ったりした。
















あぁ、どうしてなの。
知らないほうが幸せだった。







この白も、



眩いばかりの君も。


生きたいと願ってしまう、この心も。