君と、僕と、そして、 いつでも言葉に頼っていないと不安な、弱すぎる僕。 ひとつ、ひとつ、ひとつ。 全て心に在るものを形にするように、 形にしてもらえるように、 それがないだけで、 それさえ見えなければ不安で、 臆病な僕は震えてしまうから。 一人眠る暗い部屋だとか。 一人帰る夕暮れの坂道だとか。 一人溜息を吐いてしまう瞬間だとか。 あぁ、ただぽっかりと何か抜け落ちてしまったように泣きたくなるから。 必死で言葉を探して。 それを伝える相手を探すんだ。 それは心の溝を一瞬だけ埋めてくれる。 透明の箱に白綿を敷き詰めるように。 痛む傷を丁寧に包帯でくるむように。 壊れやすい何かにそっとふれるように。 心でチクリチクリと痛みを主張するそれのために、 僕は時折涙を流したりもして和らげて。 言葉を探す。 探して見つかる言葉に限りはあって、 僕はそれ以上の言葉を知らなくて、 ただ魂から溢れて流れる想いをほんの僅かでも多く、多く。 「大好きだよ、ムヒョ」 呟いた僕を君は瞳を眇めて見つめてくる。 呼びかければ、面倒くさそうにしながらも、 君はいつでも僕の瞳を見据えて聞いてくれる。 くだらない話ならやめろだとか口では言うくせに、 君の眼差しはどんな時だって僕の言葉を待っていてくれる。 だから僕は安心して言えるの。 苦しくて切なくて、心が割れちゃいそうなくらいのキモチを。 「あいしてる。」 上目遣いで不安そうに見つめているであろう僕に、 君は唇の端を器用に上げて笑う。 「テメェは、いちいち言葉にしねェと不安なのか?」 そんな君の表情とか、 少し癖のある言葉遣いとか、 皮肉めいて笑いながらそれでも見据えてくる眼差しとか。 そんなのも全部、君への慕情ばかり募らせていくから。 「君が、好き…大好き。」 「…バカめ。泣きそうなツラしてんじゃねェよ」 眉間を寄せて僕に顔を寄せる君。 絡み合う視線がまるで磁石みたいに離れなくて。 肩に廻された腕。 微かな吐息。 額に触れる髪の一房。 唇にふれる体温。 あぁ。 やっぱり僕は君が大好きなんだ。 離れられないよ。 “僕”を形成するすべてのものが、 君に囚われて、どこまでも限りなく惹かれてくから。 「好き、好き、好きなの…」 足りないよ。 こんなんじゃ足りない。 そうしてまた泣きそうになる僕の唇に、何度も温もりが落とされる。 その温かさが、僕の溝をじわりと埋めていく。 伸ばされた君の指先が、僕の指に絡む。 強く、離れないように、握り返す。 無意識に閉じていた瞼を持ち上げて、君の目を覗く。 間近で見る深い闇。 もう一度、好きと呟いて、君の瞳の奥に見えたものに息が詰まった。 僕と、同じ、それは。 何か確かなものに触れていないと、不確かなものが怖くなる。 繋がっていられるものが見えないと、心が小さくなるみたいに切ないの。 僕が言葉で溝を埋めようとするように。 君の体温でそれが埋まっていくように。 君は体温でそれを埋めようとして。 僕の言葉でそれを埋めているんだって、そう思った。 好き、好き、大好き。 臆病な僕はいつだって言葉にすがり続けるけれど。 どんなに不安でも。 溝に足をとられたとしても、今ここにあるものを信じるから。 君が与えてくれるものだけ信じて生きていけるから。 どこにも、行かないで。 僕の言葉が届かないどこかへ行かないで。 ねぇ。 死が二人を別つまで、なんて。 そんなこと思っちゃうくらいに君が愛しいから。 僕らが死んじゃっても離れないように。 信じていられるように、忘れないように。 いつだって僕は、君へと想いを溢れさせてる。 だから、時々でもいいの。 君の体温を僕に分けてね。 いつまでも、この心が、熱量で割れてしまう前に。 |
*久し振りな子ムヒョキスです。 誰かを好きになると、どんなにそれを言葉にしてみても、不安で仕方なくなったりするよねとかそんなこっ恥ずかしい内容です(どんな説明だ) ホントはこれ、このままえろすに突入かなって感じだったのですが、それはあまりにアレかなと思ってやめました。。。 それにしても原稿の息抜きってどうしてこんなに楽しいんだろう…orz |