おもうこと













いつも思うんだ。
僕がいなくなったら、ムヒョはどうするんだろうか、って。


僕のために泣いてくれるかな。
それともすぐ代わりの助手を見つけてきちゃうのかな。








ふと浮かんだそんな疑問に、
僕はソファで行儀悪く脚を組んで雑誌をめくるムヒョをじぃっと見つめた。


「ねぇ。ムヒョ」
「あー?」
「僕が死んだらどうする?」
「…なんだそりゃ」
真面目に話しているのに取り合ってくれようとしないムヒョに、
僕は根気強く尚も話しかける。


「ぼくのために、泣いてくれる?」
「…バカバカしい」

ほんとうに興味なさそうに言われて、
少しだけ落ち込んでしまう。


雑誌のページをめくりかけるその小さな手に、僕は自分の手を重ねる。
そうしてようやく彼は僕を見て、僕はもう一度その黒檀の瞳を覗き込んだ。




「僕は・・・僕は泣くよ」
「ムヒョが死んじゃったら、かなしくて仕方ないよ」



「…嬉しくねぇ。」
「だいたいオメェはそれでなくたって毎日何かにつけちゃ泣いてるだろが」
図星を突かれて、ほんの一瞬言葉につまる。


「うー」
「何でムヒョはそうすぐからかうのさー」
「くだらねぇ話を真剣に議論したってしょうがねぇだろ」
「そんな暇あるなら、夕メシでもつくってこい」
「くだらないかなぁ…」
うーんと悩む頭を、雑誌ではたかれた。


「十分くだらねぇ。オレは仮定の話はキラいだ」
「どうして」
「結局なるようにしかならねぇからナ」
「つまんない」
僕は唇をいじけた様に歪めた。


「つまらなくて結構。…それよりメシ」
「んもー。メシメシってそればっかり。」
ぷんすか怒りながらそれでも律儀にキッチンへ向かおうとする僕の背に、ムヒョが声をかける。

「おい」
「オメェは死なねぇ」

「…え?」



「オレはオレの物を横取りされるのはキライだからな」



何気なく言っているようで、その目はこちらを見ていない。
こんな表情をしている時は照れてる時だって、僕は知ってる。










それは。
それは、僕を放さないって…言ってくれてるって思っていいのかな。
誰にも…どんなに抗い難いものにだって渡さないって…そういうこと?




「…おい。何ニヤニヤしてる。気持ち悪ぃぞ」
「別にー」
ふふふと意味ありげに笑って、僕はもう一度ムヒョに視線を向けた。


「ムヒョ」
「あ?」
こっちを見ようとしないムヒョの背中をギュッと抱きしめる。
「大好きだよ」





ありがとね。
僕に、いろんなものをくれて。