It’s snow-white










いつだったろう?




「強いね、ムヒョは」
泣きながらオマエはそう言った。



「テメェが甘すぎンだよ」
無言で踵を返し歩き出すその背後で、
くずおれいつまでも泣き続けるそのかすれた声が、
いつまでも耳にこだましていた。





顔を覆う彼の両手は血に染まっていた。
助けられなかった命の、そのこぼれ落ちた軌跡に。



白く繊細な指に染み入る赤と。
目に痛いほどの青空と。
透明なその涙と。





目に焼きついて離れない。











優しすぎる魂。
些細な痛みにさえ、ハラハラと涙を落とすのは。
与えられる自らのそれよりも、痛みそれ自体に心を寄せてしまうから。





気づいていないのだろうか、オマエは。
その細い両腕を懸命に広げて、
どんなものでも抱えて、
世界の全てを曇りなく愛する、それを。



それを何と呼ぶのかを。










振り返る。
振り返って視界に捉えた、沈むように膝を落としたままのその姿に。




どうしてだ。
どうして。


どうして、オレが泣きたくなる?




ぐっ、と胸に何かが詰まる。
気がつけば、彼の前に立ち尽くす自身の姿が在った。


朱にまみれたその手、頬、唇。
ふれて、その体温を感じて。





「いつまでも、泣いてんじゃねェよ」












穢されるな。



咎を背負うばかりのこの身なれど。
あぁ、どうかこの言葉だけは穢されず遠く届いて。
どうか、どうか穢されずにいて。




天からの使いというものがいたとして、
きっとそれはこの蜜色を纏うオマエのこと。



紅く染まるばかりの世界を、ひとひらの微笑みで、
ただひととき忘れさせてくれるオマエが、どうか穢されぬよう。











『強いね、ムヒョは』


あぁ、オマエがそれを望むなら。
望むようにオレは生きよう。






迷わぬよう、まっすぐ、ただその手をひいて歩いていこう。