声。










かみさまはいるかな。




初めてオレにそう問うたのはアイツだった。


あおいあおい水面を映すようなそらが広がる日だった。




オマエはこの空が好きだとわらった。

オレはそんなオマエが好きだとおもった。



あおいあおい空のその向こうに誰かがいるのかいないのかなんて、
どうでもよかった。



オマエが嬉しそうにわらうから、
それだけでもう他のことはどうでもいいっておもったんだ。











かみさまはいなかったよ。




初めてそう言ったのもアイツだった。


あかいあかい滲む紅のそらが広がる日だった。




あんまりにも透明にわらうから。


すこしだけ泣きたくなった。



あかいあかいそらの向こうに誰がいるかなんてどうでもよかったのに、
オマエがいないなんて言うから。



すごく、さみしくなった。










かみさまがいるのなら、
雨を降らせる代わりにしあわせを降らせてくれたらいいのに。



かみさまがいるのなら、
どこまでも広がるそらとか海のように、
大切なものをどこまでも消えぬようにまもってくれたらいいのに。



かみさまがいるのなら、
その存在を疑うべくもないように、
ただ温かさだけ与えてくれたら。




かなしみなど知らず、
ただあおいそらにわらっていられたのなら。











しあわせが剥がれ落ちたその下の絶望は、
どうしてこんなにも重くつめたく深いのだろう。














旧友が新しく連れてきた琥珀の瞳の助手は、
そらを好きだと言ってわらったアイツにとてもよく似ていた。



かみさまはいるとおもう? なんて、冗談で訊いたら。



疑いもなくわらって頷くから。





友が彼を助手に選んだ理由が、わかった気がした。












かみさま。



琥珀を敷きつめたようなそらに想いをはせる。





かみさま。

かみさま。

かみさま。




どうか遠いそらのむこうでひとり震えているであろうアイツに、
この声を届けて。



もう一度あの日のよう、わらえるように。






どんなに渇望しても戻ることのない時計の針に
溜息をついて、


ふわりとわらった柔らかな思い出に
届かぬ腕を伸ばし続けて、




みあげるそらは果てなく遠く。






「 もう一度    」




無意識に呟いてしまう言葉の先に、
自身がなにを望むのかすらわからないけれど。









かみさま。


もう一度、あの丘で。



もう一度、あの空の下で。





祈るように両手を前にあわせた。









雲が流れる。


遠く高く霞むそら。




かみさまがいるとしたら、
それはきっと、このそらとよく似ているのかもしれない。





ただうつくしく。


ただ心を奪っていく。







「かみさまはいるかな」


声が、きこえたような気がした。










そらはあの日のまま。


ただ、もうどこにも、オマエの姿だけが見つからない。















■え・・・っと・・・い、イチエン?(訊くな)
もしかすると続きます。
ヨイチ書くのは結構たのしいです。